JR名古屋駅近くにあり、「名古屋の台所」として親しまれる柳橋中央市場で31日午前、中核施設「中央水産ビル」(名古屋市中村区)に入る店が最後の営業を終えた。入居する老舗の鮮魚卸売業「カネス」もその一つ。店主の杉浦さんが約半世紀にわたる営業に幕を下ろした。

 市場がにぎわう早朝。人なつっこい笑顔が特徴の杉浦さんが、立ち止まる常連客と最後の商いに精を出す。「ヒラメ持って行け」「最後だから10円おまけ」。客の一人から「次はどこ行くの?」と尋ねられ、「ここ終わったら(墓地で有名な)八事に行く」と冗談で返す場面も。

 戦時中の1942年に生まれ、中学を卒業して15歳でこの世界に飛び込んだ。毎日明け方、地元の三河湾に面した一色漁港に通った。新鮮なエビやカニ、タコなどを競り落とし、トタン製の箱に詰めて背中に担いで始発列車で市場に運んだ。戦後復興期の最中で牛肉が希少で、庶民の食べ物も魚が主流だった時代。市場で2坪ほどの狭い場所を借りて魚を並べると、飛ぶように売れた。65年に今の水産ビルが建つと、今度はそこで営業を始めた。

 市場には名古屋市内の飲食店を中心に、目利きの買い付け業者が集まった。いかによその店で出回っていない魚を扱い、早く売り切るか。売れ残りは決まって安く買いたたかれる。そんな「駆け引き」を重ね、商売の基本を学んだ。「水産ビルがあったから飯が食えたし、自分も成長できた」。感謝の気持ちは尽きない。