ふぞろいな野菜や果物だけを取り扱う小さな八百屋が、福岡市中央区のオフィス街にできた。農家が市場に出荷できないサイズや見た目がバラバラな品が並ぶ。取り扱うのは旬のものだけで、品ぞろえも十分とは言えない。起業した社長自らが表現する「不便な八百屋」とは――。

 西鉄天神大牟田線薬院駅から徒歩3分の所に、「美味伊都(うまいと)」はある。昔ながらの八百屋とはひと味違うポップな内装の7坪ほどの店内には、福岡・糸島半島産のキャベツやニンジン、トマト、大根などが並ぶ。店名は、魏志倭人伝に「伊都国」として伝わる糸島地区の古称と「美味い」を掛けたもの。福岡弁で「うまいと」は「おいしいよ」「おいしいもの」の意味になる。

 開業したのは前川さん。警察官を15年務めた後、2015年の福岡市議選に立候補したが落選。高校時代にハンドボール部だった経験を生かし、隣の糸島市を本拠とする社会人ハンドボールチームの設立に関わった。

 「農業とハンドボール」をコンセプトに掲げ、就農を条件に選手を募った。農業の担い手不足と、選手の引退後のセカンドキャリアを見据えたものだった。その縁で、糸島の農家と農産物に出会った。

 19年にチームから身を引いて別の会社に勤めた。しかし、糸島の農産物の魅力が頭から離れない。「これを福岡のオフィス街で売ったらビジネスとして成り立つのではないか」との考えを温め続けていた。

 出荷できない「ふぞろい品」があることを知った。形や見た目が悪くても味はいいので、前川さんは「規格外品」とは呼ばない。安く売るのではなく、「適正な価格」で仕入れて販売することにした。農家の後継者不足を目の当たりにし、農業を守るために生産者の立場を大事にしようとの考えからだった。

 フードロスを減らすためにキッチンを併設した。鮮度が落ちる前に、弁当や総菜、スイーツに調理する。近くには企業のオフィスが立ち並んでおり、ランチ需要はあると踏んだ。

 農産物は付き合いのある糸島の農家15軒ほどを回って仕入れる。どれだけ形が悪くても、買い手が付かないものでも取り扱う。前川さんが考える、糸島の農産物の魅力はバリエーションの豊富さ。有名な特産品があるわけではないが、西洋野菜から伝統野菜まで多種多様な野菜が作られている。人口約160万人の福岡市に隣接する糸島は産地と消費地が近いため、旬のものを仕入れることができるという。

 オープンから1カ月半。客足は上々という。「うちはその時に仕入れられるものしか置いていない不便な八百屋だけど、その時に一番おいしく食べられるものをそろえている。糸島のうまいとば食べてみんしゃい(おいしいものを食べてみてください)」