「氷」の旗がそこら中で風に揺れている。歩けばかき氷にあたるが、ひと味もふた味も違うのがこの街の特徴だ。材料はチーズにコショウ、プロテインや野菜――。タイ料理店も菓子店も、果ては卵かけご飯専門店まで、飲食店がこぞって独創的なかき氷メニューを生み出している。
氷にスプーンをさし入れるとチーズの香りが広がる。口に運ぶとコショウが舌に刺激的だ。食べ進めると、氷の中に甘酸っぱい紫のシロップが。ライムと蜂蜜とレモンジャムだ。
タイ料理「RAhOTSU(ラホツ)」で食べたのは、ココナツミルクとペッパー、チーズがベースの「コペチ・クワトロフォルマッジ」。2018年からアジア風かき氷を扱い始め、具材の組み合わせを変えて、昨年は年100種を手がけた。店長さんは「タイらしい表現でメニューを書くなど、異国情緒ある見せ方でお客さんの想像力をかき立てます」。
演出で盛り上げるのは「Jazz Pub Gentry(ジェントリー)」だ。「カスタードブリュレの焼氷(やきごおり)」は、キャラメルソースで味付けした氷の中にブリュレを仕込み、最後に全体をメレンゲでコーティングする。仕上げは席で。店内の照明を落として、マスターが「準備はいいですか」。火をつけたコアントローを振りかけると青い炎が高く上がった。
カクテルのレシピや幼い頃に読んだ漫画から着想を得た、大人のかき氷を提供して今月で丸5年。寺社巡りのついでではなく、かき氷目当ての観光客が増えたと感じている。「この店でしか出せないものを追求しています。うちはあくまでバーなんだぞ、という心意気があります」