集落の高齢化や人口減少で、収穫されないまま放置された里山の柿。この季節にあちこちで見かける風景だが、柿目当てにサルやクマなどが出没し、農作物に被害を与える悩みの種でもある。そんな「放置柿」を有効活用し、里山の環境を考えるきっかけにしようと、山口県立大学が取り組みを始めた。

「こんなにおいしくなるなんて」

 「やった、取れた」。山あいに田畑が広がる山口市仁保中郷に10月6日、明るい声が響いた。県立大の学生15人ほどが、持ち主が亡くなった空き家の隣にある柿を収穫した。近くの農業吉広さんに教わり、先の割れた長い竹や高枝切りばさみで高いところにある実も取った。「このあたりは柿を食べるサルが多いが、若い人が大勢いると近づかなくなる」と吉広さんも笑顔を見せた。

 仁保中郷地区は人口1126人(2020年国勢調査)で10年前より13%減少し、集落によっては65歳以上の高齢者率が6割を超える。「地域の維持管理が年々難しくなっている」と吉広さん。放置柿も悩みの種の一つだ。

 「ほったらかしの柿がサルを呼び寄せ、周りの野菜まで食べてしまう、悪いパターンになっている」

 学生らを教える県立大地域文化創造論研究室の斉藤教授は「住民の食文化や農村風景を形づくってきた柿を、有効活用する流れができないか」と以前から考えていたという。県の外郭団体「やまぐち産業振興財団」から市内の新たな体験型観光の検討を依頼された時、「となりの柿プロジェクト」を提案した。柿の収穫から加工までを体験ツアーで楽しみ、加工品の販売による収益を里山整備などに充てる企画だ。

 6日に収穫した柿30キロほどは渋抜きのためにブランデーにつけた後、袋に入れて保管。それを使って学生らが2週間後の20日、スイーツの試作に挑戦した。今後の商品化や流通も視野に入れて、地元の農業法人「秋川牧園」が協力した。

 一部は皮をむいて種を取り除き、砂糖などと煮てジャムに加工。柿ソースをのせたヨーグルトパフェやシュークリーム、柿を詰めたローストチキンを作った。柿マフィンは秋川牧園が事前に用意した。

 大学院修士1年の藤原さんは「こんなにおいしくなるなんて。柿を放置しておくのはもったいない」と話した。

 来年度は市内の湯田温泉で1泊し、放置柿の実態を学び、収穫体験や調理、食事を楽しむ柿づくしの「エコツアー」の実施も検討しているという。