北海道の人口約660人の村に、全国から愛されたそばがあった。麺は黒く、風味豊か。音威子府(おといねっぷ)そば。駅や食堂で親しまれたが、昨夏、製麺所が閉じ、製法が引き継がれないまま姿を消してた。
この状況を憂えたのは、村出身で南に約1千キロ離れた千葉県茂原市で食堂を営む佐藤さんたち。「そばの香りが立ち、のどごしもいい。このそばをなくてしてはいけない」。ふるさとを思う気持ちが、幻になりかけた黒いそばを復活させた。
音威子府村は北海道北部の内陸に位置し、中心部を長さ全国4位の天塩川>が流れる。寒暖差の大きい気候はそばの栽培に適し、名物は村にあった製麺所が生み出す「音威子府そば」だった。そばの殻ごとひき、麺は黒く、香ばしい。麺は太いがつるりとのどを通る。JR宗谷線の音威子府駅にあった駅そば「常盤軒」には全国の鉄道ファンやそば好きが訪れ、休日には200食近く注文があり、車で駅そばを食べに来る人も絶えなかった。
しかし、常盤軒は店主が21年に亡くなり、閉店。製麺所も経営者の高齢化や施設の老朽化で、昨年8月末にシャッターを下ろした。製法は誰にも伝えられず、音威子府そばも静かに歴史を閉じた。
その知らせに驚いた一人が千葉県茂原市で「音威子府食堂」を営む佐藤さんだった。
幻になりかけた北海道の黒いそば 1千キロ離れた地で試行錯誤し復活
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